権威に真実を告白する:リーダーの聴く姿勢と社員の告白をサポートする

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2017年3月6日 ディック・ヴィーンマン

先進国中の実業界や政府、他の主要機関のリーダーたちは、大きな課題に直面している。すなわち、自分たちとキーとなるステークホルダーとの信頼関係を再構築することである。2017年、Edelman Trust Barometerは、人々の実業界や政界のリーダーに対する信頼はこれまでになく落ち込んでいることを明らかにする冷静なレポートを出した。英国の主要な組織では史上最低の信頼度29%となった。CEOへの信頼度は過去最低の37%であるが、実業界リーダーに対する信頼度は33%へと落ち込んだ。

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理由は簡単である。信頼を得るためには、お互いの関係の中でそれぞれが個々の関心のためではなく、双方の利益のために行動しているという信頼の共有が必要である。多くの巨大企業がこの基本的な真実を忘れているように思われる。最近のスキャンダル事例では、アメリカ金融機関ウェルズ・ファーゴがある。業績至上主義で顧客をないがしろにした、通常では考えられないほどのクロス セリング業績は、やはり通常の取引ではなかったことが明らかにされた。
しかしながら、ウェルズ・ファーゴだけを取り上げるのは公正ではない。経営陣の言葉や意図に疑義を持たせるような企業スキャンダル例は尽きることがない。フォルクスワーゲンの排ガス不正スキャンダルは、数十億ドルの制裁金を科されることとなった。ドイツ銀行は米司法省に対し、有害な住宅ローン担保証券を不正に販売したとして72億ドルの和解金を支払うこととなった。英国の食品小売業テスコでは、仕入業者との様々な不正取引によって粉飾決算を行っていたとして、退任した取締役の数名が詐欺罪で起訴された。アップルやアマゾン、グーグルといった主要企業も、法人税が優遇される国で複雑な子会社取引を行うことにより、明らかに大きく利益計上できる市場で税負担を最小化しているとしてメディアの見出しになっている。そして、ロールス・ロイスのような企業を巻き込んだ贈収賄の告発や和解が昨今相次いでいる。そしてこうした動きは続く。消費者、規制当局、他のステークホルダーは彼らが下すことのできるただ1つの論理的結論に至る。「これらの企業や首謀者は、私利私欲に関与しており、彼らは信用できない」。
議論されない真実
懸念事項がこれらのスキャンダルの背景にある。すなわち、結局は明らかにされることとなる不正行為は、しばらく(多くの場合、数年)の間、不正を働いている組織内で多くの人に知られていたが、容認される行為となり、したがって、「議論されない状態」となる。言いかえると、組織内で反対の声を上げたり、オープンに議論したりすることのできない、ある種の「真実」とされるものが根ざしていたということだ。
一般的に、透明性と「権威に真実を告白すること」は良いことだと考えられており、大概のリーダーは従業員が気軽に上級管理職に対して声を上げ、反対することができる組織を率いているのだと主張するだろう。彼らは、上下関係をまたぐ本音の対話不在は、パフォーマンスと組織の真実追求の妨げになることを認識している。しかしながら、これらのスキャンダルは絶えることがなく続いている。
「権威に対する真実」に関する調査
Right Conversation社のJohn Higginsと、アシュリッジ・ビジネス・スクールのMegan Reitzにより最近行われた18ヶ月に及ぶ英国での調査「沈黙させられること、沈黙させること:権威へ真実を告白する能力の育成」では、透明性への障壁が暴露された。「真実の告白」は用意されているプロセス(多くの企業の既定事項)によって行われるのではなく、むしろある瞬間や特定の関係性の中において行われることが調査で示された。言い換えると、告白できると感じる者と、聴き手(たいていはより権威のある者)が必要なのである。調査によって明らかになった驚愕すべき事実の一つは、1つの組織における管理職の80%が自分の言うべきことの重要性を信じているにも関わらず、その管理職たちのわずか40%しか直接の報告を聴くに値すると信じていないのである。
われわれは、ヒエラルキーの階層による統率されたメッセージと影響という、トップダウンによるコミュニケーション過程の遺産の中で生きている。調査は、内部告発のような公式なプロセスがあればコミュニケーションの透明性を有意に増加させるという信念を捨て去るべきであると示唆する。人々は受け身であるように教育されており、彼らが何かがおかしいと感じたときに与えられた唯一の選択肢が組織の存亡に関わること(例:本格的な内部通報手続きを執らなければならないようなこと)であるという場合、彼らは何もしないだろう。なぜなら、それを行うことは、しばしばキャリアの終わりを意味することだからだ。
例を挙げると、英国の国民健康サービスの最近の調査において、公式な内部通報制度(主要な各基金ごとに「告発の自由擁護官」の任命を含む)が整備されているにも関わらず、約50%の従業員は結果を恐れて問題にするのを躊躇すると明らかにした。内部通報制度が「真実の告白」を促進するための回答だというのならば、よりよい質問をしなければならない。
真実を聴く権威
調査は、権威への真実告白は、双方向の道であることをはっきりと示している。告白する者と聴き手の上級管理職が必要であり、特に聴き手の上級管理職が重要である。ここに問題がある。「権威への真実告白」というこの言葉のように、問題(そしてそれゆえに解決)は告白しない者であって、聴かない(聴きたくない)者ではないことを示唆する。より若手の社員に「正しいことをするように」との道徳的信念や勇気を求め、一方ですべてのリスクを弱者に負わせる。しばしば、上級管理職のような権威ある人々は、何年も(聴いてもらうよりも)命令され続ける状況や、大会議場で威圧的な状況が経営陣へ質問できる唯一の場で、無力を感じることがどういうことか覚えていない。そうした場では、リーダーたちはどのような答えが爪の先ほど譲歩するのか、しないのかを準備している。
組織のリーダーが真実を聴きたいならば、みせかけの行動だけでなく、真剣に聴こうとしなければならない。ドアが常に開いているという、繊細で巧妙に意図されたCEOの部屋への招待は、組織人生における本質的なものを無視している。組織は政治的なものであり、階層的で地位によって動かされるものである。善悪の問題ではなく、単なる事実である。経営層の一人が「私のドアは常に開かれている」という事は両刃の剣である。歓迎しているかのように見えて、常に「私のテリトリーに来て私と話しなさい」「私にとってのあなたは、わざわざ行って話すほど重要な人間ではない」と言っているのである。
階層が下の者が階層の上の者と話す時、神経質で不安になり、ベストを発揮することは難しい。彼らは普段よりも慎重になりがちである。Robert Fullerが行った、階級の利用や乱用に関する詳細な調査(『誰かと誰でもない人:地位階層乱用の根絶』)にあるように、管理職は自分の組織には階層は存在しないと公言してやり過ごすかもしれない。だから、フラットな組織というようなものが存在可能だという便利な嘘を支持する。元工場作業員が調査員に語ったところによると、すべての作業者がボタンを押したり、ダイヤルを回したりという工場現場においてさえ、階層がある。ダイヤルを回す作業員はより多くの裁量を持っているから地位が高いのだという。
より多くの声を聴け、さもなければ代償を払え
組織が本気で透明性を確保したいのならば、最初の一歩は権威ある人間が行わなくてはならない。彼らこそが、社会や組織的階層が彼らに与えた権威の差を縮めるために必要な一歩を踏み出さなければならない。それはオフィスの誰かに話しに行ったり、彼らが何を思っているのか聴いたりといったシンプルなことかもしれない。われわれがインタビューした軍幹部が行っていた単純で明確なテクニックかもしれない。彼は、車で運転手と一緒の時はいつでも「オフレコ」で話すように求めたのである。彼は、自分のマネジメントチームとの公式な会議の間よりも、この短い会話の間で組織に関するより多くの真実を聞いたという。
しかしながら、これはリーダーが若手社員やその先輩、そして他の組織の同僚に同等の重要性を認めていることが前提である。しかしこれは常であるわけではない。調査の一環として、米国系アクティビスト投資家と話したところ、調査員はなんと多くの主要企業の上級管理職が、他の上級管理職の意見やいわゆる「ダボス会議」の人たちのみを懸念しているように思われる。つまり、彼らも我々の大多数と同様のことをしているのだ。自分と似た人や、自分と似た価値観を持っている人の話を聞くため、挑戦したり代替案を考えたりということをしにくくなる。
こうした「エコーチェンバー現象」は最近政界で劇的な事象をもたらした。イギリス(EU離脱の国民投票)とアメリカ(ドナルド・トランプの大統領選挙)の政治的権威において、有権者の大多数が感じている真実を聴くことに失敗した。現実には、多くの人々は、政府は自分たちの意見を聞いていない、移民政策や国際化をはじめとして自分たちが懸念している問題は真剣に取り扱っていないと感じていたため、投票で雪辱を晴らそうとしたのである。不都合な真実を聞いてこなかった指導者たちは、結果として政治シーンを大幅に変化させた。ビジネスリーダーたちは、こうした警告に注意深く対処しなければならない。最終的には、真実は常に明らかにされていくのである。
3つの小さなステップ
真実を聴くことは、上級管理職が勇気を出して一般レベルに寄り添い、何でもないことに関心を抱くことから始まる。アクティビスト投資家が言ったように、一般の人々と一緒に地下鉄に乗ったり、肩を触れ合ったりすることから始まるのだ。上級管理職は、好ましくないことや同意しがたいことを聞いた時下位者は責任者の全挙動を見ているため、高いレベルで自己認識を保ち、自己コントロールをしっかり行わなければならない。メッセージがきちんと理解されていないならば、再度伝えることを考え直さなければならない。
透明性は、人々が恐れを抱くことなく階級を超えて話し合い、観点を共有することで生まれる。これは非常に人間的な問題であると心から認識し、いかなる介入も行ってそこをスタート地点にしなければならない。透明性向上の行動を取るにあたり、次の3つのステップを提案する。
1.過程でなく人に焦点を当てる
透明性を向上させるために、内部通報手続きの案内、部屋のドアを開け放つポリシーや、他の手続きといった導入しやすい手段に陥ることが有効でないことは実証されている。人間全体を第一にする視点こそが、お互いに恐れを抱くことなく話し、聴き、本音を出し合うことを可能にする社会的結びつきを確立することがでる。何年も前であるが、心理学者Martin Buberは、我々の企業風土は、社員を「モノ」に変えてしまった、そして社員はモノ扱いされることを嫌うと述べた。お互い第一に仲間の 人間として向き合う時のみ、権威に真実を告白し、権威が真実に耳を傾けるための必要条件を確立することができる。
2.リーダーのファーストステップをサポートする
ファーストステップは、最も権威ある者から始まる。リーダーは以下のような場合になる時の意識を高め、自身の行動を省みなければならない。A) 特定の事柄について話さない選択をしたとき(例えば、沈黙するとき)、B) 意識的・無意識的にでも他者を沈黙させるようにいつどのように行動するか。研究者たちは、英国警察の幹部たちを含む多くの組織でこのような調査をしてきており、それらの組織は変革を本当に必要としていた。組織内の権威は現実に存在し、潜在的に他者を沈黙させる効果が明らかに認識され精査されなければ、最初に沈黙させる者よりも声を上げない者を責める誘惑がいつもつきまとう。
3.1回に、1つの会話に集中する
最終的に、これが解決の難しい問題であることは認めること。従来からの組織風土を優先する多くの組織において、人々が本心から告白しても安全だと感じ、リーダーが本心から真実に耳を傾ける文化を創り出すことは争いが避けられない。真実の告白や傾聴は、人々がオープンになる(もしくはならないこと)を決断した瞬間に起こり、そうした状況において従来の行動様式を変化させるには時間を要するだろう。トレーニングと継続したフィードバック、そして本当のコミットメントが必要である。私たちは、習慣を変えるには時間がかかること、それには近道はないことを知っている。しかしまた、私たちは忍耐力を持って、習慣は変えられることも知っている。

Dik Veenman

ディック・ヴィーンマンは、Right Conversation社の創業者であり、マネージングディレクターである。Right Conversation社は、組織内の対話の質向上にフォーカスしたロンドンに拠点を置くコンサルティングや研修、調査を行う会社である。特に、業績管理に関する対話の質向上にフォーカスしている。彼はシニアエグゼクティブとして20年以上の経験があり、多くの業種や地域で組織内対話のあらゆる面で ビジネスリーダーたちにアドバイスしてきている。彼の顧客には、BBC、イングランド銀行、Presidential Flight(アブダビ)、トヨタ(英国)、バージン鉄道、アラブ首長国連邦大統領執務室、アーンスト&ヤング、タレス、ブリティッシュ・テレコム、ナショナル・エクスプレス、サウジアラビアのナショナルバンク、オールド・ミューチュアルがある。

出典:http://cw.iabc.com/2017/03/06/speaking-truth-to-power/