オーナーシップというコンセプト

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前回は、自己目的化したコミュニケーションは、けっこう効率が悪いという話しをしました。それはどうしてなのか? というところに切り込みたいのですが、そのために、ここで ” オーナーシップ (ownership)” というコンセプトを持ち出したいと思います。辞書的には “当事者意識” という訳語が一番近いと思いますが、ここでは “最終的な責任をとる覚悟” というほどの、ちょっと強いニュアンスを込めて使っていきたいと思います。私が皆さんと考えたいと思うのは、コミュニケーション部門のオーナーシップとは何かというテーマについてです。

ひとつお断りをしておけば、前々回IABCが提唱するビジネスコミュニケーションのコンセプトには、広報や、人材開発や、マーケティングなどの職種を超えて、機能としてのコミュニケーションを考えようという特徴があることに触れました。ですから、ここで “コミュニケーション部門” としたのは、特定の部門の名称というよりは、そうした機能を果たす組織という意味で受け取ってください。

オーナーシップというものについて考えるきっかけは、社内では意外と担当部署 (オーナー) がはっきりしない仕事が多いなと気づいたことでした。会社の理念や長期計画など、全社プロジェクトベースでつくったところまではいいのですが、出来たところでプロジェクトは解散。そのまま、所管が曖昧になってしまったケース。あるいは、いちおう所管部署は決めたのですが、担当者は出来たものを渡されただけで、何となく他人 (ひと) 事、当事者意識 (オーナーシップ) が薄いケース。

そのこと自体が悪いというつもりはありません。残念なのは、このように誰のオーナーシップかはっきりしないしない理念とか計画は “使い勝手が悪い” ということなのです。例えば、それについて問い合わせたいと思っても、社内でたらい回しになってしまう。あるいは、担当者を見つけても、私には判断はできない・・・決定権がない・・・という返事が返ってくる。そうなると、せっかくの理念や計画なのに使うのがおっくうになってきます。ユーザビリティが悪いのですね。

ひと言でまとめると 「 オーナーがはっきりしない仕事は、ユーザーにとって使いづらい 」 ということです。

これは私自身が経験したことでもあります。花王にはいま 「花王ウェイ」 という企業理念がありますが、その前身は1995年に作成した 「花王の基本理念」 というものです。これがまさしく上記のように、つくって ”よかったね” でプロジェクトは解散。あまり活用されることがありませんでした。

これを ”もったいない” とは思うのですが、また逆の見方もあると思うのです。すなわち、活用されなかったのは、そもそもビジネス上のニーズが無かったのではないか?という見方です。ニーズが無いところで、いくら理念の共有や活用を振り回しても徒労に近かったのではないか?”つくりっぱなし” も時には正解、ということです。

ちなみにですが、企業理念 (corporate philosophy) のニーズは、社内でもかなり斑 (まだら) 模様だという実感があります。ひと言で言えば、周辺ほど強く、中心ほど弱いという傾向があるのではないでしょうか? たとえば海外企業のM&Aなどの場面では非常に理念に対するニーズが高まります。反面、本社を中心とした事業基盤がしっかりとしたところではニーズはなかなか顕在化しません。

そうした現状を前に、理念の活用をどのように進めるのか、それについては大きく二つの考え方があるようです。ひとつは、上記のようなニーズにあわせて、進め方を部署ごとにきめ細かくカスタマイズするというもの。もうひとつは、いや理念の共有は全社一律に差が出ないように進めるべきだという考え。もちろん正解があるわけではなく、理念活用の目的に照らして判断すべきものでしょう。花王ウェイの取り組みについては、以前の記事も参考にしていただけるのではないかと思います。(2012年2月3日)

そもそもIABCとはInternational Association of Business Communicatorsなのですが、いったいビジネスコミュニケーションとは何を指すのでしょうか?また、そのように概念化することによりどのようなメリットがあるのでしょうか?IABC本部の考え方を参照しながら、また時にはまわり道を怖れずに、少しずつ考えていきたいと思います。

 下平博文
IABCジャパン理事 (花王株式会社)